糸井 |
だんだん好きになりそう。
意外といい。
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鈴木 |
どれどれ。これ、ムチャクチャ楽だよ。
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糸井 |
この写真1枚撮っておいて。なんの意味もなく。
今。テスト期間なんですよ。
この椅子に関して、いいの悪いの、書くためにあるんです。
これは、周りに対しても気が楽。
作務衣とか着たりすると、地酒の店みたいになるね。
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鈴木 |
人間が置き物化するね、これは。
変ですか?
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糸井 |
たとえば、このソファーだったらお尻が伸びるじゃない。
こういう動きがいつでもありえるわけじゃない?
そういう動きを無意識で避けているんだよ。
だから、どっかで力かかるのよ。
甘い罠みたいな。
もうちょっとこれでいってみるわ。
ただ、スリッパの行き先とか、わけ分からなくなりますね。
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鈴木 |
すごく、見られてる感じがしますよね。高床式。
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糸井 |
これじゃ(ひざの位置調節中)曲げすぎでダメだろうな。
キーボードでペダル使わない場合はすごくいいと思わない?
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野田 |
(当然、美人マネージャーです)
楽ですよね。自由な空間が。後ろにもいけますもんね。
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糸井 |
だから、強気なミュージシャンがキーボード弾いたときに
「ノレよ!」みたいなね。両手を大きく上にあげてさ、
クッラプ ヘンド。
そういうこともできる。
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野田 |
なんか、健康っていう感じですよね。
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糸井 |
さあ、慶一君とムダ話しよう。
ムダ話っていう制約でいい?(笑)
そのほうがいいと思ったんだ。
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鈴木 |
すごい制約だなあ。
むだなことしなきゃいけないって。
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糸井 |
いいよ、ムダじゃなくても。
慶一くんが、また時間がとれるんだったら、
飽きないように、あまり長くしないで
「またおいでよ」みたいにしてね。
そのほうが楽だと思うんだ。
大瀧さんのように時間無制限にしてもいいと思うけれども、
ヘトヘトになるよ。
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鈴木 |
大瀧さんと3時間やると、ヘトヘトになるでしょ。
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糸井 |
あれはよそうか?
だから、普通のビデオ1本見るみたいにして、
「こないだ話し足りなかった」なら、
「この日空いたから」とまたやってもいい。
そうしよう。
そうすると気が楽だね。大瀧さんはスゴイわ。
体力もあると思うし。
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鈴木 |
あの人は福生から出てくるっていうさあ。
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糸井 |
わざわざ来た分だけの。
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鈴木 |
終わりましょうって言うまではしゃべるっていう。
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野田 |
面白かったですけど。
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糸井 |
だから、本人が「連載やめましょう」って言ったのも
分からないことはないんだ。
長いコンサートのときに、
観客がちゃんと聞いてない時間帯になったりするじゃない?
そんなとき、ミュージシャンって、
飽きるんじゃないかなぁ?
あれだと思うんだよね。
最初拍手してノリノリでこうやってたやつが、
だんだんとこう、こんなんなってく。
やめたいって思う、そういう心理なんだと思うんだ。
正しいよなぁって思うねぇ。
自由についての考えが、しっかりある感じ?
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野田 |
かなり読んだような気がしますけど。
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糸井 |
1時間半テープが6本ですか。7本だったか。
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野田 |
テープ起こしはほとんどそのまま再現したんですか?
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糸井 |
そう。
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鈴木 |
このあいだ、スタジオで十何年ぶりに会ったんだよね。
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糸井 |
何やってるの?
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野田 |
市川美和子ちゃんていうモデルのプロデュースやってる
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糸井 |
チワワの子?
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野田 |
そうです。
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糸井 |
あの人、うちの原稿2、3度書いてくれてるよ。
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鈴木 |
なんか、その女の子のいる事務所の女社長が
ほんの25年前にね、泊まりに行ってたって言ってたよ。
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糸井 |
何屋さん?
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鈴木 |
江口さんの事務所かなあ。
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野田 |
江口洋介さん。
「パパドゥ」って会社の社長さんは、
昔、「センチメンタル・シティ・ロマンス」の
マネージャーの男の人と結婚してたの。
代々木だかに住んでてね。
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糸井 |
あ、ロック入ってるんだね。
だから「パパドゥ」って、タレントがノビノビしてるんだ。
確か、江口君と、松たかこと、伊武さんもそうでしょう?
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鈴木 |
それで大瀧さんに頼んだんだって。
なんか、昔の会いたい人に頼んでるみたいね。佐野君とか。
それで、歌入れなんだけどさあ、えんえんしゃべってるの。
歌入れの最中だよ。
最初は世間話から始まったんだけども、
そのうち「作曲者から見てあの歌い方どう?」とかね。
「切らないで歌いなよ」とか、
「そうなんだよ最近の子は息が続かないんだよね」
とか(笑)。
そのわけは、公害とリンクしてるんだとか言って。
そっからがまた長いんだ。
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糸井 |
本人(歌手)はずっと歌ってるわけ?
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野田 |
ほら、今の子って、鼻濁音が変でしょう?
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鈴木 |
鼻濁音の話になって、今度は出身地の話になって、
落語家で鼻濁音できない人がいて、
そりゃあ困ったって話になって。
今のテレビは関西に押されてて
そんな発音になっているとかね。
|
糸井 |
それは慶一君は何しに行ってたの?
|
鈴木 |
作曲者として立ち会うだけ。
しまいにさあ、曲中に競馬の歌詞があってさ。
要するに大瀧さんが現在隠してる「裏」っていうのは
本来「表」で、音頭とかそういうものがあるじゃない?
それ、オレには「表」なんだよ。
「ところでお前、なんかモノマネできる?」
「うーん、あんまりできない」
「馬できないか?」
「馬ぐらいなら。ヒンヒンヒンて言えばいいんでしょ?」
「よし、レコーディングしよう!」って(笑)。
それでオレ、馬のいななきを6テイクくらいやって。
|
糸井 |
その歌に関係あるわけ?
|
鈴木 |
関係ある。ちょっとね。競馬の話が出てくるから。
|
糸井 |
中央フリーウエイの左手に見える
とかそういうことじゃないのね。
|
野田 |
そこにいななきが入る、って感じですよね。
|
糸井 |
謎の人っていうのは、世の中にいくらでもいるね。
やっぱり、人の目に見えている才能って、
みんなほんの一部だね。
あの人、このまま一生何もしなくても
おかしくない人じゃない?
とすると、馬のいななきもなかった。
本当に不思議だなあ。
|
鈴木 |
なかった。
70年代のなかばに出たナイアガラ・カレンダーという名作が
あるんだけど「あれでもし俺が死んでたら
カルトの帝王だよ」とか言ってた。
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糸井 |
本気は本気なんだね。半分以上。
仕事しなくてもやっていけるように
仕組んだってことがすごいんだよ。
|
鈴木 |
あの人は、全ての原盤をもってるしね。
全ての原盤を自分で買い戻してるんです。
あの人「仕組み」がすごく好きですよ。
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糸井 |
好きだよね。
意外と理科系の人にちかいことを考えてるよね。
大瀧さんの話をしていると、いくらでもしゃべれる。
だから、ここまでにします。
慶一君は、あっちこっちで
ものすごく名前を聞くわけですよ。
いろんな人の会話の中に、慶一くんが出てくる。
特に、テレビ局の人とか、
スタッフワークしている人のなかに、多いよね。
神さまみたいに言う人も多いよ。
でも、「くん」なんだよなぁ、ぼくには。
だいたいさー、ぼくが「くん」で呼ぶ人って、
何人かしかいないんだよね。
上官となんかみたいな、軍隊にいたみたいに。
もっと年下を人のことを「さん」と言ってるくせに
なぜか慶一君は「くん」なんだよ(笑)。
パターンになっちゃってるから。
だから、もう「さん」はないの。これから一生。
カルトって言ってしまったら簡単すぎるんだけど、
鈴木慶一、ムーンライダーズで育った子たちが
まだ恩返しができてないっていう感じが、
きっとあると思うんだよ。
「ぼくはあれに世話になったから、こういうことで
なんか、やった気がするんですよね」
みたいなのがないんだ。
慶一君、誰にも恩を返させてないのよ。
だから、いつまでたっても
「僕はムーンライダースを好きでいる」
っていうやつが残るんだよ。
|
鈴木 |
好きな人が大人になってさあ、
「一緒にお茶でもしませんか?」
とならないんですよ、あまり。
「それはちょっと……」って。
|
糸井 |
何なんでしょうかね。
|
鈴木 |
こちらの問題かなあ。
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糸井 |
でもまあ、誰でもそういうパターンでいったら
そうだと思うんだけど、ライダースに関してって
そのわりにはみんな言うよね「僕は好きだって」。
|
鈴木 |
岩井(俊二)監督だってね、すごく待って、
待って、待ってね、
初めて音楽の仕事っていうものをしたよね。去年だっけ。
|
糸井 |
「毛帽子」のとき?
|
野田 |
そのあとに、過去のテレビ番組をビデオ化したんですけれど
そこで新たに「ゴーストスープ」を。
|
鈴木 |
それは、全編にクリスマスソングが入っているのね、
オリジナルには。
それは使えないから、新たにオリジナルのクリスマスソング
を作りましょうということになって、
僕が作ったり、岩井さんが自分で作ったり
そこまでグーッと引っ張って引っ張って我慢して、
やっとするわけだよね。
|
糸井 |
それは岩井君が社会的なポジションを、本当に獲得してから
じゃないとできなかったことなんでしょうね。
|
鈴木 |
そうかもね。
その後、ずっといっしょにやりましょう
っていうわけでもないわけだ。
「かなった」っていう感じで。
|
糸井 |
恩を返したんだ。
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鈴木 |
なんかね(笑)。
|
野田 |
それはまた寂しいですよね。それはそれで。
|
糸井 |
ある意味、よいファンのせいなんだよ、本当に。
|
鈴木 |
それは何のせいなんだろうなあ。
|
糸井 |
慶一君って、強くプロポーズしたり、立候補したりって
しないじゃない。
それはまあ、東京の子はみんなそうなんだけど。
そういうことの好きな子が、田舎の子なんだけど。
逆にそのあたりの鈴木慶一の感じって、
田舎の子には絶対にまねできないから、
東京の子志向の人たちが応援したがるでしょ。
だから、ファンは溜まってるんだけど、
しゃべりもしないで部屋に固まってるみたいなね。
そういうところがあるよな。
|
鈴木 |
遡ると、子どものときにね、
小学校のときのテストなんかで100点取ると目立つから、
わざと間違いをしてた。嫌なヤツなのよ。
それで、ちょっと陰に隠れたいわけだ、常に。
だから、立候補しないんだよ、絶対。
|
糸井 |
なんでそんなに、前へ出ること嫌がるんだろうね。
そのわりには舞台とかに立ってるわけじゃない。
|
鈴木 |
「ぜひ、よろしくお願いします」って言ってもいいんだよ。
でも、そこでガードポジションに入っちゃう。
|
糸井 |
でも特に、守ってる感じはしないよね。
どちらかというと捨てばちに近いような(笑)。
|
鈴木 |
そっちに足をあまり踏み出さないんだね。
だから、どんどん人と会って、
どんどん人間関係を広くしていって、
たくさんの仕事をしていったりとか、
たくさんの人と知り合いになるタイプもあるわけだけど。
それは、かなり薄いよね。
|
糸井 |
要するに、クインシー・ジョーンズになる上がり方ね。
|
鈴木 |
あの上がり方はないんだよね。
逆に客にナローにしている気もする。今考えてみるとね。
|
糸井 |
でも、外から見ていても、
「閉じた印象」っていうのは別にないんだよ。
「あいつって人付き合い悪いよな」とか、
「いいんだよほっとけば」って言わないよ、人は。
|
鈴木 |
いい人っていうのがまた問題だと思うんだけど。
あんまり嫌われたことがないよな。
|
糸井 |
オレも聞いたこと、一度もない。
|
鈴木 |
「あの人はちょっと」っていう噂がある人のほうが
強いし、私から見たら本当にうらやましいですよ。
|
糸井 |
うらやましいんだ。「なりたい」とは思わないくせにね。
|
鈴木 |
そうそう、なりたいとも思わない。
そうなりたかったら、なるよね。
|
糸井 |
でも、ファンたちの慶一君に対する見方というのはどうも、
“自由さ”みたいなものだと思っているらしいんだよ。
だから、力関係なんて関係なく生きているから
どれも切れるし、どれもくっつけるしみたいな。
その意味では今的なんだと思うよ。
|
鈴木 |
確かに、自由を制限されることに対して異様に敏感だね。
|
糸井 |
あぶねえ、あぶねえって思うよね。
だけどさ、オレ、根はどっちかっていうと
本当は慶一君型の人でしょ。
だけど、どこが違うかっていうと、
「俺のほうが我慢がいい」(笑)。
|
鈴木 |
(笑)
|
糸井 |
職種にもよるんだけど。
イーハン、リャンハン縛り、
広告の仕事が基本だから。
作詞家になると、その縛りが、
急に飛んじゃうわけだよ。
上がれるけど、役ができてないみたいなことで、
それでもいいって場合もあるわけだしね。
だけど、ミュージシャンて根本的に
そういうものじゃないじゃない。
|
鈴木 |
ミュージシャンだけやってればね。
ただ、僕なんかの広告との接点っていったら、
コマーシャルの音楽つくるとかじゃない。
で、ここは縛られるんですよ。
こうしてください、ああしてください
って言う人もいるわけだよ。
でも、好きにやってください
って言う人がやっぱり一番恐くて、
いろいろ確認しないと、
作業をひっくり返してしまったりするわけだよね。
給料もらって生きたことがないわけだよ。
で、給料もらって生きている人と接する機会っていうと、
コマーシャルの音楽の仕事をするときくらいしか
ないんだよ。
まあ、レコード会社の人もそうだけどさ。
すると、面白いんだよね。
何ハン縛りみたいなものがさあ。
こんなにいろいろ人から人へこう、伝達されて
何かが決定されるとかさ、
数人で決めなきゃいけないときに、顔色を見るとかさ。
非常に面白いんだよね。
|
糸井 |
工場生産を見ているみたいな面白さがあるよね。
オレ、実は、今でもそうなんだ。
|
鈴木 |
そんな長くやっててそうなの?
でも大事だよね。
|
糸井 |
だから、若いときによく、典型的なことでいうと、
大きい会社に行ったときに「華道部水曜日例会」とかさ、
書いてあるじゃない。
それとか、「誰々、恵比寿何とかスタジオ、直帰」
とか書いてある。
あれ見ると、いつも憧れていたのよ。
楽しそうに見えるんだ、その世界が。
|
鈴木 |
あまり、「直帰」って書いたことないしさ、
いつも立ち寄るかもしれないし、
じゃあ、日常は何してるかっていうと、
何時に起きなきゃいけないってこともないわけだよね。
仕事が入ってない限りさ。
つまり、睡眠時間なんて、どうでもいいわけだ。
2時間寝てまた起きて、ゲームをやってまた寝ても
いいわけだ。
イトイさん、なんか数年前には俺に
毎年言ってくれてたじゃない。正月くらいに。
「今年は免許だよ」とか、「今年は嫁だよ」。
「自由すぎるよ」、とか(笑)。
|
糸井 |
オレ、やさしいお兄さんなんだよ、意外と。
見てると心配になるんだよ。
|
鈴木 |
オレの年上じゃない。
大瀧さんも年上なのね。
音楽始めたころは、年上ばかりだったけど、
現在年上と話す機会って非常に少ないんだよね。
そうすると、ますます自由になっちゃうわけだよ。
だから、こうする、ああするってことがさ、
それで、自分で決めて済んでしまうわけだよね。
だから、年上と話すこと、接する機会がないっていうのは
考えものかもしれないよね。
|
糸井 |
オレは今、年上、年下関係なくなっちゃって、
年下の人を年上の人だと思って見ている時間が
けっこう多いんだ。
|
鈴木 |
それは言えるね。
年上って、若いときに接してて、
その後ずうっと接しなくなったんで、
気になる存在ではあるよね。
年下っていうのは下も上も関係ないっていう。
|
糸井 |
もしかしたら慶一君のことを
「こうしろよ」とかっていう年下もけっこういるだろうね。
|
鈴木 |
そりゃあいるでしょう。
それが、平気で言えるっていうのが不思議なんですよ。
(野田さんを指して)この人もそう接してるし。
そうだよなとか思ったりするし。
|
糸井 |
できないものはできないって
本当は開きなおってるかもしれないね(笑)。
|
鈴木 |
そうそう「分かった、分かった」なんて言いながら、
本当は「できるわけないじゃん」なんて思ってたりして。
|
糸井 |
この人の言うことは正しいな、と思いつつ。
|
鈴木 |
正しいことができるかというのは、また別の問題だからさ。
|
糸井 |
別に正しいことのために生きているんじゃない、
とかそういうことですよね。小理屈を。
一番やはり言うのは、近くにいるみなさん?
|
鈴木 |
言うねえ。
いくつ違うんだっけ、14・・・。
また、そういうふうに言えるような状況を
知らないうちに作っているんだろうね。
|
糸井 |
言われたいって気持ちない?
|
鈴木 |
まあ不安だからね。
不安ていうのは、「じゃあ、こうするぞ」
って言ったときに嫌われてるんじゃないかって(笑)。
|
糸井 |
オレなんかも斎藤さんに
「イトイさん、ちょっとお話があります」
なんて言われると・・・ほんとは、
まあ、いいお話かもしれないじゃない?
なのに、職員室いらっしゃい、みたいな。
|
鈴木 |
ちょっと低い声で呼ばれたら恐いよね。
「なんだろう?」と思うじゃない。
そりゃあ、いい話かもしれないけれども。
絶対悪い話じゃないかなって。
|
糸井 |
いい話度って、1%くらいしか頭にないよね。
情けないやつらだね、しかし(笑)。
|
鈴木 |
でもそういう人が周りにたくさんいるわけだよね、
きっと私なんかね。
恐くないとか、そう感じる問題かもしれないね。
|
糸井 |
恐いこととかってあるの?
|
鈴木 |
俺スピードがあんまり好きじゃない。
スポーツ好きなのにね。
人間が走れるくらいのスピードなんだな。
だから、本来、クルマの助手席に座るのも好きじゃない。
|
糸井 |
じゃあ、ジェットコースターなんてたまんない?
|
鈴木 |
絶対乗らないね。
ジェットコースターに乗る機会があるときは、
私は全員の荷物を持って、下で見送ってる(笑)。
決して乗らない。
|
糸井 |
それは乗ったほうがいいかもよ。
「今年は!」ってことでどうよ(笑)?
|
鈴木 |
うわー。
|
糸井 |
オレね、スカイダイビングしたんだよ。人生変わるね。
2回やったんだよ。
で、自分だけでやった喜びもあるんだけど、
子どもを落とした喜びもひとつあるんだよ。
つまり、子どもが落っこちちゃったっていうのは、
自分以上にエライことじゃない。
だから、そのときにはその印象が強かったんだけど、
でもまあ、いま印象として残っているのは自分で。
あれはやっぱり恐いものだから、さ。
合言葉があるんだよね。
「レディー、セット、ゴー」って言うんだよ。
で、レディーのときは、ほんとはもう、ゴーなんだよ。
3つで一つなんだから、レディーって言われたときには
もうゴーなんだよ。
なのに、不思議なことに「レディー」って言われたときには
「ゴー」じゃない、って少し思ってるわけじゃない。
あ、これがコツだ、と思ったね。
要するに自由意思で選んでるっていう。
|
鈴木 |
要するに、やめられる選択肢があるっていうことだね。
|
糸井 |
「レディー」って言ったときに、少し後ろに傾くんだけど、
あえてやらせてるんだと思うんだよ。
だから「レディー」はレディーですよ、
ということで、後ろに傾いたことで、
自由意思を確認するの。
|
鈴木 |
今ならまだやめられますよっていう。
|
糸井 |
そう。
それで「レディー」で後ろに反り返って、
こんなことは本当はしないだろうと思うんだ。
で、「セット」って言ったら前に乗り出すの。
最初から乗り出してもいいのに、
1回「うしろ」でタメといて「前」、だから
「オレがやってるんだよ」って分かって、ね。
そこはただもう、巨大な穴だよね。地表に続く。
こっから時間を戻してって「戻ります」とは言えないよ。
で、「ゴー」と言ったあと、転がり落ちるように
落っこちるんだよ。
で、あ、そうか、
はなから「ゴー」って言うと無理なことが、
「レディー、セット」ってつけるだけで、
できるんだなと感心したね。
昔の人はいろいろといいことを考えてるよ。
|
鈴木 |
「せえの」、とかね。
|
糸井 |
“の”でいいのに(笑)。“せえ”が付いてる。
それで、落っこちてる間っていうのは
やはりすごく気持ちいいのよ。
気持ちいいっていうのはねえ、
自分の中にある世界観では足りない感覚が
くっついちゃうわけじゃない。
すると、足らないものが入っちゃったおかげで
あわてて世界観を整理しなきゃならないんだけど、
しきれないんだよ。
で、「(整理)しきれませんでした」っていうときには
もう、パラシュートが開くんだよね。
だから、約30秒間、ボクはどうすることもできないけども、
「どうすることもできない時間を楽しみましょうね」
っていう気持ちになったら素晴らしいんだよ。
それは、後になればうまく言えるけど、
そのときは分からなくて、笑うばっかり。
気持ちがいいんだか、悪いんだか、恐いんだか、
とにかく言葉は「わー、気持ちいー」だけど、
言ってることは意味ないんだよ。
とにかくでかい声出して、「わー」とか言ってるんだよ。
で、カメラマンも一緒に飛び下りてて、
「彼にピースをしたらエライ」って言われてたんで、
課題が1つ与えられると、(僕は)イーハン縛りに
なる人だからできるんだよ。
目先の目的が好きだから。
だから、大笑いでピースして、
もちろん、先生が付いてるから何の危険もないし、
セーフティ機構が三重くらいになってるから
絶対だいじょうぶなんだけど、
事実としてのだいじょうぶってことと、
だいじょうぶってことをちゃんと分かる
っていうことは違うから、
やはり相当なもんなんだけれども、ね。
パラシュートが開いて、ドンッといったときには
自分が急に鬼に空からつかまれたみたいに
ビョーンて上に引っ張られて。
だから、落っこちたということが、
やっと感覚的に分かったときには開くから、
ヒューンって上に連れていかれるの。
でもそれは、上に連れていかれたんじゃなくて、
速度が緩んだだけなの。
|
鈴木 |
じゃあ、上に連れていかれるっていうよりも
けっきょく落ちてるんでしょ。
|
糸井 |
本当はね。
なのに、相対でしか計れないから
自分がヒューンと上にあがって、
「あ、もっとやっていたかった」と思った。
あんなに恐いのに。恐くないはずがないんだよ。
その後は、空中散歩でさ。
それは飛んでる時間が15〜20分くらいなんだよ。
サービスで、
旋回してみましょうね、とかいろいろやるんだけれども、
それは全然面白くないの。
ただ高いところで、フワフワしているような。
テレビカメラで見た映像なのよ。
飛行機からも見たことがあるし。
|
鈴木 |
ということは、30秒くらいの時間がすごいんだね。
いやだな、でも。
|
糸井 |
いや、あれやったらもしかしたら、何か得るかもよ。
やらないような気がするけどね。
やるきっかけないもんね、別に。
ジェットコースターはねえ、
恐くしましょうっていう遊びだから、
あれは設計者の意図を、自分が乗っかっているときに
想像するのが一番楽しい。
こうして、こうして、こう思ったらこうだったとか、
要するにゲーム作っているのと同じなんです。
センスのいいジェットコースターに乗っているときなんかは
「この人はいいセンスしてるわ」
っていうジェットコースターがあるのよ。
たとえば、富士急ハイランドの
「FUJIYAMA」はセンスいい。
|
鈴木 |
オレは下で荷物持ってましたもん。
|
糸井 |
あと、ディズニーランドのスペースマウンテン。
これも小さいサイズのジェットコースターを
これだけ面白がらせるセンスっていうのが最高にいい。
だから、音楽で同じような作り手になりたい。
|
鈴木 |
2度3度乗ると、ある違う側面に行き着くよね。
|
糸井 |
ジェットコースター、つまらなく乗る方法もあるんだよ。
本当に力抜いちゃうと、全然恐くない。
脱力してると、ジェットコースターは
絶対安全なはずだから、流れがちゃんと安全に
動いているのよ。
ところが、意思が働くんで、
右かなと力入れたところに左だとか。
|
鈴木 |
その転調が恐いんだな。
|
糸井 |
だから、硬い筋肉に対してもう1回、
ひっくり返しの刺激を与えることで裏切るから、
それを恐さとして認識するんだよね。
慶一君的安定を壊すためには、かなりいいよ。
(スカイダイビング)は高いのが欠点だけどね。
高度じゃなく、値段が高い。
5万8000円だか取られるんだよ。
あの30秒に5万8000円は、ボクシングの試合より高いよ。
|
鈴木 |
1R決着とかね。
|
糸井 |
オレもそういう試合見ているけどね、
1秒いくらだよ、みたいな。
|
鈴木 |
ヒクソンVS高田の初戦みたいなものだね。
|
糸井 |
あれは一番無駄なお金だったかもしれない。
オレ、この1年くらい、すっごくケチよーっ。
|